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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(あ)3670号 決定 1960年7月26日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人朝尾皆之助の上告受理申立理由(第一点)及び上告趣意第一点(一)について。

相互銀行法二条一項、三条一項、四条、五条及び二三条の諸規定の文意に徴すると、同法二条一項一号に規定する業務は同法三条一項、五条及び二三条にいう相互銀行業に該当するが、元来この種の相互銀行業はその業務の性質上株式会社である相互銀行でなければ、これを営むことができないわけのものではなく、単に法律上これを大蔵大臣の免許に係らしめ、大蔵大臣の免許を受けた、資本の額が一定の金額以上の株式会社である相互銀行でなければ、これを営むことができない旨規制したに止まり、法所定の相互銀行以外の者であってもなお事実上右の相互銀行業を営むことができることはいうまでもない。されば、所論中相互銀行法においては相互銀行は必ず株式会社であることを必要とし、その法律上の性格は営利資本団体であるから、同法二条一項の行為についてもそれが営利の目的で反復継続してなされる場合にはじめて相互銀行業務となるし、営利の目的がなければ同法違反の罪を構成しないという主張には俄かに賛同することができない。

しかして、同法一条は「この法律は、国民大衆のために金融の円滑を図り、その貯蓄の増強に資するため、相互銀行について必要な規定を定め、金融業務の公共性にかんがみ、その監督の適正を期するとともに信用の維持と預金者等の保護に資することを目的とする」と規定して同法律の目的精神を明らかにしており、この目的精神、なかんずく「金融業務の公共性にかんがみ、その監督の適正を期するとともに、信用の維持と預金者等の保護に資することを目的とすること」に照らして考察するときは、前掲諸法条において「相互銀行業(同法二条一項一号に規定する業務)を営む」というのは、反復継続の意思をもって同法二条一項一号所定の掛金の受入を行うことを指称するものと解するのが相当である。勿論事実上の取引としては、右のような意思の下に右のような掛金の受入を行う場合には、通常その運営者が加入者から利息若しくは手数料の名義をもって金銭を徴して利益を図り、その利益金や加入者の出資金及び掛金の運用益金から自己の運営報酬を取得する場合が多いであろうが、運営者においてかかる経済的利益を取得する意思の有無は、その反復継続の意思の有無を決定する標準の一つに成るに過ぎず、いやしくもその掛金の受入が反復継続の意思をもって行われたと認め得る場合においては、その業務の公共性にかんがみ、その監督の適正を期するとともに、信用の維持と加入者の保護を図る必要のあることは、運営者に利益若しくは報酬を得る意思の有無にかかわらないものというべく、従って、所論の点については営利を目的とすることは必ずしもその要件とするところではないと解すべきである。(昭和二九年一一月二四日大法廷判決、集八巻一一号一八六〇頁参照)。

さればこれと同旨に出た原判決は相当であって、所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同弁護人の上告趣意第一点(二)及び第二点は、事実誤認の主張をいでず、第一点の(三)及び(四)は憲法違反をいうけれども実質は訴訟法違反の主張をいでず、第三点は量刑不当の主張であって、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋 潔 裁判官 石坂修一)

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